2024年
7月4日(木)開演6:30
7月5日(金)開演1:00
※上演時間2時間30分分予定(休憩15分)
作=小山祐士
演出=丹野郁弓
出演者=日色ともゑ、千葉茂則、桜井明美、塩田泰久 ほか
私たちの明日は―――
瀬戸内の劇詩人小山祐士が
ヒロシマの祈りを
美しい詩情と哀歓で描く
◆あらすじ
小さな汽船が行き来する瀬戸内海の小さな島。白い大きな花をつける泰山木。その下で質素に暮らすハナ婆さんは、貧しいながらも9人の子供を産み、戦争中に優良多子家庭として大臣に表彰されながら、3人の子は戦死、残る6人の子まで広島の原爆で亡くしてしまいました。早春のある日、一人の男がその家を訪れます。堕胎の罪でハナ婆さんを逮捕しにやってきた木下刑事です。「魂の御楯として天子様に、お国に、お捧げせにゃぁいけん」と次々と子供を育てたハナでしたが、思えば殺されるために産んだようなものだ―。悲しい体験を持つハナは戦後、人助けのつもりで、頼まれると密かに子供をおろしてやっていたのでした。御幸署へ連行する船中でハナ婆さんの話を聞く木下刑事ですが、自身も原爆症のために不具の子供を持つ身の上でした…。
◆作品について
北林谷栄のハナ婆さん役、宇野重吉演出により1963年初演から2003年まで40年(448ステージ)にわたって全国の皆さんに愛された名作ですが、昨年16年ぶりにハナ婆さん役に日色ともゑ、丹野郁弓の新演出で出演者たちも新たに上演しました。本作の主人公は、出征と原爆で9人の子を亡くした哀しみを背負いながらも健気で周囲に愛され、ときに笑いを誘うハナ婆さんだけでなく、原爆の影響や瀬戸内海の環境破壊などから思うように未来を描けずにいる若者たちの物語でもあります。主題曲「わたしたちの明日は」の哀愁漂うメロディ、劇作家・小山祐士さん特有の素朴で美しい瀬戸内のことばを活かしたセリフ、心の温もりと情緒に満ちた庶民たちのやりとり。現代にも通じる行き場のない憤りを作品に込めながらも、執筆にあたって「決して叫んではならない」と自らに課した広島出身の作家の滲み出る思いが、昭和30年代の瀬戸内を舞台に懸命に生きる生活者たちの群像劇として凝縮された作品です。
しばしば20世紀の名戯曲に挙げられる民藝の代表的な演目を私たちの世代でふたたび上演し、名もなき人々の哀しみ、怒り、そして希望を、これからも語り継いでいきたいと願っています。